2021年-2022年重大ニュース

    福島の今とエネルギーの未来

    2021年

    2月19日 東京高裁、原発事故で国の責任認め原告逆転勝訴

    原発事故により、福島県から千葉県に避難を強いられた住民 43 人が国と東電を訴えた裁判の控訴審判決で、東京高裁は一審の千葉地裁の判決を覆し、国と東電の責任を認めた。判決では、国が 2002 年に公表した地震予測を「科学的信頼性がある」と評価し、防潮堤などの津波対策を行っていれば、全電源喪失に至らなかったとした。
    原発事故の国と東電の責任に関する高裁判決としては、現在までに 3 例ある。2020 年 9 月の仙台高裁判決は国の責任を認めたが、2021年 1 月の東京高裁判決では国の責任を認めた一審の前橋地裁判決を覆した。今回の判決は国の責任を認める高裁判決としては 2 例目。

    3月17日 規制委、柏崎刈羽原発の再稼働凍結

    原子力規制委員会は、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)でテロ対策設備の不備や不祥事が相次いだことを受け、7 号機の再稼働に関する手続きを当面進めないことを決めた。柏崎刈羽原発をめぐっては、2020 年 3 月以降、侵入検知装置が 16 カ所で故障していたことが判明。うち 10 カ所では代替措置も不十分だった。また、所員が中央制御室に立ち入る際に、同僚の IDカードを勝手に使って入室していたという不祥事も発覚した。

    柏崎刈羽原発は、原子炉設置変更許可や工事計画認可など再稼働の前提条件となる安全審査が一通り終了している。立て続けの不祥事は、原子力規制委員会の審査が表面的であった点も浮き彫りにしている。

    3月18日 水戸地裁、東海第 2 原発運転停止を命じる

    日本原子力発電(原電)東海第 2 原発について、水戸地裁が原電に運転差し止めを命じる判決を出した。原告は茨城県、東京都、千葉県などの住民 224 人。判決では、地震の揺れの評価が過小評価されている等の原告の主張を退けたものの、避難計画やそれを実行する体制が整えられていないことを認め、「極めて不十分で安全性に欠ける」とした。しかし、訴えが認められたのは、原発から 30km 圏内に住む 79 人のみであった。

    それ以外の原告のうち 120 人は、「最悪のシナリオでは、広範な地域で住民が被ばくすることは明らか」とし、3 月 31 日、東京高裁に控訴した。

    3月23日 福島第一原発事故処理費、この10 年で13.3 兆円

    原発事故後の 10 年で、廃炉や損害賠償、除染にかかった事故処理費用が、少なくとも13.3 兆円にのぼることが、東京新聞の取材でわかった 1。政府は原発事故の処理費の総額を21.5 兆円としていたが、困難が予想される溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しはこれからであり、想定を上回る可能性が濃厚である。

    4月13日 ALPS 処理汚染水の海洋放出を決定

    政府は関係閣僚会議にて、福島第一原発の敷地でタンク保管されているALPS 処理汚染水の海洋放出処分を決定した。2 年後をめどに放出する。福島県漁業協同組合連合会、全国漁業協同組合連合会などが、繰り返し海洋放出に対して反対の意見表明をしていた。

    汚染水の処分をめぐっては、多くの技術者が参加する「原子力市民委員会」から、モルタル固化による陸上処分や、石油備蓄で使われる堅牢な大型タンクによる長期安定的貯蔵などの代替案が提案されていた。

    現在タンクに貯められている水の7 割近くが、トリチウム以外の放射性物質について基準を上回っている。

    東電は、大量の海水で100 倍以上に希釈する、トリチウムの年間放出量が最大22 兆ベクレルとなるように放出する、トリチウム以外の放射性物質が基準を上回っている水については、基準を下回るまで再処理を行うなどとしている。また、8 月25 日、岩盤をくりぬいて海底トンネルを建設し、沖合1km 付近に放出する計画を発表した。放出期間については、トリチウムの総量を勘案すると、30 年以上かかるものと考えられる。(関連記事p.32)

    6月23日 美浜3 号機が再稼働-「運転期間原則40 年」は骨抜きに

    関電美浜 3 号機(福井県)が再稼働した。福島第一原発事故の後、原発の運転期間は原則 40 年に制限することが法令に定められ、例外的に、審査を通れば1回に限りさらに 20 年運転することができる。事故後、40 年超の原発が再稼働するのは全国で初めて。 美浜 3 号機は 1976 年 12 月に営業運転を 開始した。運転開始から 44 年を超えている。 2004 年 8 月にはタービン建屋で点検漏れの配 管が破裂する蒸気噴出事故が発生し、作業員 5 人が死亡、6 人が重傷を負った。 老朽原発を動かすことは大きなリスクを伴う。長期間中性子にさらされた原子炉はもろくなり、緊急時に冷却する際に破損するリスクが高くなる。配管やケーブルも劣化する。 経済産業省は、老朽原発を再稼働するにあたり、1 原発につき 25 億円の交付金を立地県に支払う案を、福井県に示している2

    6月25日 六ケ所村の核燃料再処理工場の総事業費14.4 兆円に

    「使用済燃料再処理機構」(青森市)によれば、日本原燃の核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)の総事業費が増加し、14.4 兆円にのぼることがわかった。2020 年 6 月に公表された総事業費は、13 兆 9,400 億円だった。発表される総事業費は年々増加している。工期の延長や維持費、事故対策工事費用が増えたためだ。六ヶ所再処理工場は 1993 年から建設がすすめられ、当初 1997 年に完成する予定であったが、完成が 25 回延期されている。再処理工場の事業費は、電力消費者の電気代から支払われることになる。(関連記事 p.48)

    7月12日 南相馬避難20mSv撤回訴訟、住民側の訴え却下

    「特定避難勧奨地点」に指定された福島県南相馬市の住民ら 366 人が、放射線量が高い状況で指定を解除したのは違法だとして国に解除の取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁は、訴えを却下した。

    東京地裁(鎌野真敬裁判長)は、南相馬の特定避難勧奨地点の指定解除について「年間の被ばく線量が 20mSv の基準を下回ることが確実だという情報を提供するもので、帰還を強制したとはいえない」とした。また、住民が被った不利益もなかったとした。

    政府は、2014 年 12 月、南相馬市の特定避難勧奨地点を年間積算被ばく線量が 20mSv を下回るとしてすべて解除し、その後順次支援策や賠償を打ち切った。この裁判は、地点に指定されていた世帯や近隣の住民 808 人が、解除の取消しなどを求めて、2015 年4 月および6 月に、国を相手取って提訴したもの。

    原告は、年間 20mSv という基準による特定避難勧奨地点の解除は違法であり、また、解除にあたって住民の反対の声が無視されたことは国が定めた解除の手続きに反すると主張していた。

    10月22日 第6次エネルギー基本計画決定

    政府は 10 月 22 日、第 6 次エネルギー基本計画を閣議決定した。2030 年度の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を 36 ~ 38%と、従来の目標値よりも 10 ポイント引き上げた。

    原発については、2030 年度の電源構成 20 ~ 22% という従来の目標値を維持。これは、現在申請がでている原発をすべて再稼働させ、設備利用率 80% で動かしたときにはじめて実現できる数字。

    原発について「可能な限り依存度を低減」としつつも、「原子力の利用を安定的に進めていく」「必要な規模を持続的に活用する」とした。また、「再処理やプルサーマル等を推進する」という従来の記載も維持した。(関連記事 p.54)

    12月2日 GE日立ニュークリア・エナジー、カナダの電力会社から小型原子炉建設受注

    日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力合弁会社、GE 日立ニュークリア・エナジーは、次世代原子力の「小型モジュール炉(SMR)」をカナダで受注したと発表した。2022 年内に建設許可を申請し、出力30 万キロワット級の「BWRX-300」と呼ばれる小型原子炉を最大4 基建設すると報じられている。(関連記事 p.36)

    12月29日 プルサーマル発電、受け入れ自治体に交付金

    使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムを、ウランと混ぜた MOX 燃料に加工して、原発の燃料として利用する「プルサーマル発電」を推進するため、経済産業省は、受け入れ自治体に交付金を出す制度を始める。来年度予算案に盛り込んだ。

    背景には、青森県六ケ所村の再処理工場が稼働した場合、使うあてのないプルトニウムがさらに増えるという問題がある。日本は現在、プルトニウムを 46 トン保有。プルトニウムは核兵器の原料になるため、これ以上プルトニウムの保有を増やすことについては、国際的な懸念の声が強まる。

    しかし、コストの高いプルサーマル発電の需要は少ない。電気事業連合会は、2030 年度までに 12 基でプルサーマル発電を始めたい考えを示しているが、これまでにプルサーマルを導入したのは高浜 3、4 号機など 4 基にとどまる。一方で、プルサーマル発電を行ったあとに出 る使用済み MOX 燃料は、現在、国内で処理できるあてはない。また、使用済み MOX 燃料は、使用済みウラン燃料と比べ、発熱量が高く、運搬できるまでに 100 年以上かかる。(関連記事 p.48)

    2022年

    1月1日 欧州委、原発を EU のグリーン投資に位置づけ—多方面から批判の声

    欧州委員会が、天然ガスと原発を、持続可能な投資を推進するための「EU タクソノミー」に含める案を発表し、加盟国に送った。

    これに対し、ドイツやオーストリア、スペインなどが反対を表明したほか、諮問専門家グループも「原発はタクソノミーの要件を満たしていない」とする意見を発表した。今後、EU議会で半数以上が反対すれば撤回されるものの、原発導入に期待を寄せる国も多く、このまま成立する可能性が高い。

    投資家からも疑問の声があがっている。オランダ年金連合会は 2021 年 12 月の声明で、「タクソノミーは政府が自分たちの好きな経済活動に資金を誘導したり、グリーンウォッシュ(見せかけだけの環境対応)したりするための道具ではない」と非難3。EUROSIF(欧州社会的責任投資フォーラム)は天然ガスと原発を含めることは持続可能な事業への投資を促進するタクソノミーの「信頼性と有用性に悪影響を与えるだろう」とコメントしている4。国連責任投資原則(PRI)の EU 政策担当者らは、核廃棄物や事故リスクなどの観点からタクソノミーの要件である DNSH(重大な悪影響を及ぼさない)を満たさない点を指摘している5

    日本からも、FoE Japan など 261 の市民団体が「原発は、ウランの採掘から運転、廃炉に至るまで、環境中に放射性物質を出し続け、持続可能性や環境保全とは真逆のもの」とし、撤回を求める公開書簡を送付 6。また、5 人の元首相が、「原発推進は、未来の世代の生存と存続を脅かす亡国の政策」とする共同声明を発表した。(関連記事 p.56)

    1月27日 甲状腺がん患者6人東電を提訴

    福島第一原発事故当時、福島県に住んでいた男女 6 人が(事故当時 6 ~ 16 歳)、放射線被ばくの影響で甲状腺がんになったとして東電を提訴した。6 人のうち 4 人は、再発に伴う手術で甲状腺を全摘し、生涯にわたりホルモン治療が必要。原告の中には肺に遠隔転移した人や 4回も手術を行った人もいる。

    原告の一人は「差別を恐れ、がんについて誰にも言えずに過ごしてきた。声を上げることでこの状況を変えたい」と話している。

    福島県県民健康調査では、原発事故時 18 歳以下の人たち約 38 万人を対象とした甲状腺検査を実施しており、現在までに 200 人以上の甲状腺がんが見つかっている。県の専門家委員会は、1 巡目の検査についてはチェルノブイリ原発事故と比して被ばく量が少ない、地域間での差異が見られないなどの理由で、「事故の影響は考えづらい」とした。2 巡目の検査については、地域間での差がみられたものの、分析方法を変更し、「被ばくとの因果関係はない」とした。(関連記事 p.25)


    1. 東京新聞「福島第一の処理費13兆円 事故10年、政府想定超え濃厚」(2021年3月23日) https://www.tokyo-np.co.jp/article/93087
    2. 日本経済新聞「40 年超原発、電源 3 法交付金 25 億円 国が福井県へ示す」(2021年4月6日)
    3. 日本経済新聞「原発・天然ガスはグリーンか EU「変心」に投資家反発」(2022年2月2日)
    4. EURACTIV, “Investors warn ‘green’ label for gas undermines EU taxonomy” February 4, 2022 https://www. euractiv.com/section/energy-environment/news/investors-warn-green-label-for-gas-undermines-eu-taxonomy/
    5. EURACTIV, “How to save the scientific integrity of the EU’ s green finance taxonomy” October 29, 2021 https://www.euractiv.com/section/energy-environment/opinion/how-to-save-the-scientific-integrity-of-the-eus- green-finance-taxonomy/
    6. FoE Japan プレスリリース「261 の日本の市民団体が欧州委員会に公開書簡:「グリーン」でも「持続可能」でもない原発を EU タクソノミーに含めるべきでない」(2022 年 1 月 27 日)
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