第6次エネルギー基本計画と原発政策

    福島の今とエネルギーの未来

    エネルギー基本計画は、2002 年に制定されたエネルギー政策基本法第 12 条の規定に基づき、政府が策定するエネルギー需給の方針を示す計画である。原子力政策、気候変動政策、核燃料政策なども含め、エネルギー関連政策すべてのベースとなっている。少なくとも 3 年ごとに検討を加えることとなっており、2003 年 10月に第 1 次計画が策定されて以降、5 回の改定が行われてきた。東日本大震災前の 2010 年に策定された第3次計画では、原発を 14 基新設するということが書かれていた。2011 年から2012 年にかけて原発事故を受けて大きな議論があり、2012 年夏には、各地での意見聴取会や討論型世論調査など、複数の手法による「国民的議論」が行われ、最終的に「2030 年代に原発をゼロにしていく」ことが決められた。ところがこれをエネルギー基本計画に反映する前に政権交代が起こり、「原発ゼロ」方針は白紙に戻された。

    第6次エネルギー基本計画の議論と決定

    2020 年10 月から議論が開始された第6次エネルギー基本計画の見直しは、パブリックコメントを経て2021 年10 月に閣議決定された。当初、2021 年夏にも決定と報道されていたが、2021 年4 月22 日に発表された新たな「2030年度の温室効果ガス削減目標」との調整によりスケジュールが遅れた。今回の見直しの大きな争点は、2050 年度の「カーボンニュートラル」と2030 年度の「温室効果ガス46 ~ 50%削減(2013 年度比)」をどう実現するかであった。審議会の議論では、原子力の最大限の活用と火力発電の脱炭素化について、多くの意見が出された。結果、原子力については第5次計画とほぼ変わらない維持推進が書き込まれたが、産業界などが強く主張した「新増設・リプレース」の明記については見送られた。また、2050 年に向けては、新たな技術開発が強調され、原子力の次世代炉や水素・アンモニアの混焼による火力発電の維持・推進、二酸化炭素回収貯留・利用(CCUS)の推進など、不確実で高コストな技術への期待が大きく書き込まれた。エネルギー需要や電力需要の削減については、5次計画よりは前進したものの、現在すでに実現している省エネの延長に過ぎず、踏み込んだものとは言えない。再エネについては、「最大限導入」と書き込まれた。しかし、原子力や化石燃料も引き続き重視する政策が、再エネの普及にブレーキをかけている。

    審議会の委員構成は、従来とほとんど変わらず産業界に近い委員が多数を占め、市民参加のプロセスは、「意見箱」とパブリックコメントのみに限られ、一般市民の声が実質的に反映されることはなかった。

    原発事故の費用と負担
    福島第一原発事故の廃炉・汚染水処理、賠償、除染、中間貯蔵施設建設などにかかる費用は、2016 年12 月に発表された政府試算では、21.5兆円となり、それまでの試算の11 兆円と比して倍増した。この試算はデブリや大量に発生する放射性廃棄物をどのように処理するのかなど決まっていない不確かなものである。民間の研究機関、日本経済研究センターの試算によると事故処理費用は35 ~ 81 兆円となっている。東京電力は、事故処理費用の全額を賄うことができず、かなりの部分が国民負担となっている。本来、事故の責任を負うべき原子力事業者、経営者、株主などが責任を免れるという悪しき前例をつくることとなった。

    原子力政策をめぐる議論

    ・2030 年度に「原子力20 〜22%」とは?

    現在ある 36 基の原発のうち、新規制基準未申請の 9 基を除いた 27 基すべてを設備利用率 80% で動かした場合にその割合が 20.6 ~ 20.9% となる。しかしここ最近の状況を見ても、様々な不祥事や故障、人為的ミス等により、原発の再稼働スケジュールが遅れたり、点検期間が長引いたりすることが相次いでいる。裁判により運転差し止めになるケースもある。「稼働率 80%」はそういった運転停止がほとんど起こらないという想定であり、現実性はない。

    ・再稼働の強調と老朽原発の運転

    「再稼働加速タスクフォース」の立ち上げが書き込まれたほか、原発の長期運転についても積極的な記述がされた。現在、原発の運転期間は原則 40 年とされているが、「2030 年に原発 20 ~ 22%」の想定は 40 年超の老朽原発の運転も想定し、50 年を超えるものも含まれる。 2050 年に向けても「必要な規模を持続的に活用」と書き込まれた。

    ・原発の新増設・リプレースは書き込まれず

    「可能な限り原発依存度を低減」という表現はかろうじて維持され、新増設やリプレースについて書き込まれなかったことは、原発廃止を望む世論を考慮したためと考えられる。しかし一部の産業界や電力業界は、強い主張を繰り返している。

    市民団体や若者団体は、2020 年末からエネルギー基本計画見直しに声を上げるキャンペーン「あと4 年、未来を守れるのは今」を実施しました。若者や原発事故・気候危機の当事者などの声を伝えるとともに、署名や経産省への意見提出、各地でのアクションなどを呼びかけました。
    詳細は:http://ato4nen.com/

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