保養の取り組みから~コロナ禍の中で

福島の今とエネルギーの未来

 福島第一原発事故以後、様々な団体が、一時的に放射能汚染が少ない地域に子どもたちを受け入れる「保養」に取り組んできた。放射能汚染や被ばくの影響に不安を抱えて暮らす人たちの選択肢として、「保養」は10年経った今もニーズが高い。

 原発事故後、放射能や被ばくの影響について率直に語り合うことができない空気があり、その状況自体が父母たちの大きなストレスとなっていた。保養プログラムは、子どもたちに思いっきり野外で遊んでもらうことに加え、参加者がリラックスして、ふだん語れない不安や疑問について、他の親子と語り合い、共有する場を提供してきた。原発事故は、それだけ大きな心理的ダメージを多くの人々に負わせたのにもかかわらず、調査やケアも十分でない1

 2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの団体が保養の中止を余儀なくされた。

 FoEJapanでは、保養プロジェクトを通してつながっている福島の父母に対して、コロナ禍での想いについての声を集めたところ、2020年のコロナ禍での休校措置、外出自粛、マスク着用などにより、10年前の原発事故直後の辛さと苦しさ、不安をフラッシュバックしてしまう状況をうかがわせる声が多くよせられた。また、原発事故の直後には、放射能のリスクにもかかわらず、学校は休校にならなかったなど、コロナ禍での対応との違いに対する疑問の声もあった。コロナ禍で保養に参加できない中、保養の必要性を訴える声もあった。

 チェルノブイリ原発事故後ベラルーシ、ウクライナの汚染地域では、18歳までの子どもたちが年3週間、非汚染地域における保養に参加する制度が、国家の予算により維持されてきた。一方、日本では、保養に対するニーズは高いのにもかかわらず、国・福島県が保養の必要性を認めておらず、民間の市民団体が保養を担っている。

 各地の保養団体は、経済的にも人的にも疲弊してきており、コロナ禍でなくても、縮小や中止も余儀なくされている。保養を被ばく低減の具体的な施策の一つとして、国の政策に位置付ける必要性が高まっている。

保養参加者の声より

・いつまで続くかわからない自粛生活。子どもたちの時間は大人が感じる時間よりとても長いと思います。当たり前に出来た生活を制限させられ、見えないウイルスに、不安な日々を過ごさなくてはいけない。原発事故があったあの日から、同じように見えない放射能に怯え、マスク生活で、外遊びや食べ物を制限しながら、過ごしてきました。今コロナ禍、全世界のみなさんがつらい思いをしていると思います。福島の私たちは10年間そんな中にいるんです。
・手を洗う、マスクをする、不要に出歩かない…放射能の舞う中、福島で暮らしていた10年前の私たちと重なります。しかし、あの時、外出制限もなく学校もそれぞれの判断、避難するも各自の判断。今回の政府の政策を見ていても、わからない事ばかりです。そして戻せない過去を哀しく思い、虚しくなります。
・コロナ禍で保養の機会が失われました。震災から10年を区切りに急速に風化が進んでしまうのではと危惧しています。放射性物質は目に見えずとも存在しています。保養はこれからも必要だと切実に思います。
・新型コロナウイルスで学校が休校になりました。どうしてあの日、2011年4月、福島の学校は休校しなかったのでしょうか。今でも悔しいです。 ・新型コロナウイルスのことで、原発事故のことは、国民の関心がなくなってきているような気がします。福島のお母さんたちが、今も苦しんで悩んでいることを忘れないで欲しいです。

「福島ぽかぽかプロジェクト」2020年度の状況

 FoEJapanでは、2012年以降、福島の親子のための保養「福島ぽかぽかプロジェクト」を定期的に続けてきました。しかし、2020年は、コロナ禍のため、予定していた3月味噌づくり、水俣長崎学習旅行、ドイツ若者交流ワークショップ、ゴールデンウィークの猪苗代での保養プログラムなどを中止にせざるをえませんでした。

 7月末、子どもたちに野外活動が不足していること、お母さんたちが、精神的にも追い詰められている状況であるため、少人数での保養を再開し、2020年7月~2021年1月まで、9回のプログラムを開催。スタッフは全員PCR検査を受け、県外スタッフと参加者で、使用する洗面所・トイレ・テーブル・車・キッチン作業を分けるなど、可能な限り安全対策を講じて開催しました。

 保養プロジェクトの参加者からの声:コロナ感染者数が日々最多更新となっている中での開催は、スタッフも、参加家族も、とっても複雑で、各家庭で協議し、考えることがたくさんありました。だからこそ、慎重に開催してくださったスタッフのご尽力にはとても頭が下がります。心から感謝です。

少人数で開催された「福島ぽかぽかプロジェクト」による保養2021年1月

注釈1:どこまでが原発事故に伴う影響であるかについては明らかではないが、福島県の児童相談所での虐待相談件数は10年間に9.04倍(全国平均は3.44倍)、20歳未満自殺者数は全国1位となっている。

(『福島の今とエネルギーの未来2021』)

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