原発の稼働状況(2022年版)

    福島の今とエネルギーの未来

    福島第一原発事故前、日本全国に原発は54基あった。事故後、原発はすべていったん停止し、その後再稼働したのは10 基。東日本では「原発ゼロ」の状況がすでに11 年間継続している。事故前に3 割程度あった総発電に占める原発の割合は、2020 年には約4%にとどまる。

    柏崎刈羽原発~問われた東電の「適格性」

    東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の6・7 号機では、再稼働のための安全対策費が1 兆1,690億円とふくれあがった。同原発に関しては、新潟県が、「福島第一原発の事故原因」、「原発事故が健康と生活に及ぼす影響」、「安全な避難方法」の3 つの検証を行っているところだ。新潟県は、これが終わらない限り、再稼働に向けた議論は行わないとしている。

    一方で、柏崎刈羽原発の審査に当たって、東電の原発を運転する「適格性」が問われた。原子力規制委員会は、「廃炉への覚悟」「リスク低減の継続的努力」などを社長名の文書で回答させ、また、保安規定にも書き込ませた。しかし、東電は住民への賠償を払い渋り、ADR(原子力賠償紛争解決センター)から提案された和解案を拒否し続けている。保安規定に実態のない精神論を書き込ませて合格させる原子力規制委員会の姿勢は疑問だ。

    2021 年 2 月、東電の柏崎刈羽原発所員が原発中央制御室に、別の所員の ID カードを用いて不正な方法で入室したことが発覚。原子力規制庁はこの報告を受けていながら 4 カ月も事実を明るみに出さなかった。東電のみならず、規制庁、規制委員会の姿勢も問われている。

    被災した女川原発2 号機が合格~早々に県知事が再稼働に「同意」

    東北電力女川原発2 号機( 宮城県) は、2020 年 2 月に原子力規制委員会の設置変更許可が出た。また、同年 10 月に立地自治体である女川町・石巻市の議会と宮城県議会が、11月に宮城県の村井知事が再稼働に同意した。今後、工事計画認可、保安規定認可などの手続きがあるが、東北電力は 2022 年の稼働を目指している。

    女川原発は東日本大震災当時、高さ約13 メートルの津波や激しい揺れに襲われた。5 回線ある外部電源のうち1 回線が生き残り、かろうじて外部電源が保たれた。損傷を受けた施設や機器も多い。原子炉建屋の耐震壁に1,130 箇所のひび割れが確認された。

    県内では再稼働反対の世論が根強い。2017 8 月、河北新報が行った世論調査では、女
    川原発 2 号機の再稼働について「反対」「どちらかといえば反対」を合わせた反対意見は 68.6%に上った。2019 年 2 月、「女川原発再稼働の是非をみんなで決める県民投票を実現する会」は、再稼働の賛否を問う県民投票条例の制定を求める署名約 11 万筆を県議会に提出した
    が、同年 3 月に否決された。立地自治体および県知事が、早々に再稼働に合意をしたことにより、根強い再稼働反対の声が宙に浮いた形となった。(関連記事 p.34)

    東海第二原発~老朽原発を動かす理由は?

    原子力規制委員会は、2018 年 9 月、日本原電・東海第二原発(茨城県)が新規制基準に適合しているとし、設置変更許可を出した。10 月には工事計画認可を、11 月には 40 年以上の運転を認める運転延長認可を出した。今後の焦点は「地元同意」に移った。日本原電は再稼働前に、立地の東海村のみならず、周辺5市の事前同意を取得しなければならないからだ。東海第二原発は、東日本大震災で被災した。津波により外部電源を喪失して 3 日以上経って、かろうじて冷温停止し、それ以来停止したままである。地震によってどのような被害をうけているのか、すべてが確認できているわけではない。

    東海第二原発は運転開始から 40 年以上経つ老朽原発だ。東日本では 3・11 後、原発は一基も動いていないが、電力供給は安定している。 2018 年、記録的な猛暑に見舞われたが、節電要請はだされなかった。危険な老朽原発を無理に動かす理由は見当たらない。

    東海第二原発の安全性に関しては、たとえば、以下のような問題点が指摘されている。

    • 全長約1,400km のケーブルのうち、「難燃 ケーブル」もしくは「今後難燃ケーブルに取 り換える」ものは一部だけである。
    • 赤城山噴火時においては、最大で 50cm もの火山灰が降下する。原子炉建屋の強度不足や非常用発電ディーゼルの目詰まりなども懸念される。
    • 緊急時対策所は、免震構造になっていない。
    • 近隣には高レベル放射性廃液などを貯蔵する東海再処理施設(現在、廃炉作業中)があるが、万が一東海第二原発で事故が生じたときの対応が検討されていない。

    日本原電に流れる不可解な電気料金

    日本原電は、原子力発電専門の発電会社で、東海原発、東海第二、敦賀原発 1 号機、2 号機を所有する。しかし、東海原発、敦賀 1 号機は廃炉が決定し、敦賀原発 2 号機も直下に活断層が認定された。

    2012 年以降、発電量はゼロにもかかわらず、東京電力、関西電力、中部電力、北陸電力、東北電力から、毎年 900 億円以上の電気料金収入を得て、延命している。その額は、総額 9,401億円にものぼる(2012 ~ 2019 年度)1。日本原電の延命のための資金を、日本原電から 1Whも買っていない全国の電力消費者が負担している状況だ。

    なかでも最も高額の基本料金を支払っているのは東電だ。その金額は2011 年度~ 2019 年度は総額4,082 億円にものぼる。福島第一原発事故の賠償・廃炉・除染などの事故処理費用がまかなえず、公的な資金が注入されて実質「国有化」されている東電が、まったく発電をしていない日本原電に巨額の「電気料金」を支払い続けるという不可解な構図が常態化している。

    図:電力各社から日本原電に流れる不可解な電気料金
    出典:日本原電有価証券報告書をもとに作成

    (「福島の今とエネルギーの未来 2022」)


    1. 日本原電有価証券報告書
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