2019年9月、東京地方裁判所は、福島第一原発事故をめぐり、業務上過失致死傷罪で起訴されていた東京電力の旧経営陣3人に無罪判決を言い渡した。勝俣恒久元会長(79)と武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69)の3人は、巨大津波への対策を怠り、44人を死亡させたとして、強制的に起訴されていた。未曽有の原子力災害をもたらした東電経営トップの刑事責任は認められなかった。
裁判の争点となったのは海抜10メートルを超える津波の予見可能性であった。被告3人は「大津波は予見できなかった」と主張した。
裁判では、2008年6月、東電の土木グループ津波対策担当が、政府地震調査研究推進本部(推本)の長期評価に基づき最大15.7メートルの津波対策を講ずるべきことを、武藤元副社長に進言していたことが明らかになった。しかし、武藤元副社長は、担当者らに津波評価については土木学会に検討してもらうよう指示し、具体的な対策を先送りにした。裁判では、当時、東電は、中越沖地震に伴い柏崎刈羽原発が停止し、原発の耐震安全性強化に多額の費用を投じなければならず、それが経営を圧迫していたことも明らかにされた。
被告の弁護側は「長期評価には具体的な根拠がない」として推本の評価の信用性を否定。「対策を取っていても事故は防げなかった」と過失を否定していた。
被告側の主張をなぞった形となった判決に対して、検察官役の指定弁護士を務めた石田省三郎弁護士は、「国の原子力行政に忖度した判決だ」と述べた。
「福島原発刑事訴訟支援団」の武藤類子副団長は「最も責任を取るべき人の責任を曖昧にし、二度と同じような事故が起きないように反省し、社会を変えることを阻んだ判決」「たくさんの証拠、証言がありながらこれでも罪が問えないのか」と憤った。
(「福島の今とエネルギーの未来2020」)