原発をめぐる世界の動き(2021年版)

    福島の今とエネルギーの未来

     世界の発電に占める原子力の割合が今後「自然減少」することが指摘されている。毎年世界の原子力産業について包括的なレポート「WorldNuclearIndustryStatusReport(原子力産業ステータスレポート、WNISR)1」を発行しているマイケル・シュナイダー氏は、2019年のレポートで、世界が「自然に脱原発に向かっている」と表現。これは一体どういった状況を指しているのだろうか。シュナイダー氏らによる2020年版レポート等を元に、世界の原発事情や、日本の原発輸出政策について見ていきたい。

    世界の原子力産業に関する状況

     2020年7月現在、WNISR2020年版レポートによると世界31カ国に408基の稼働可能な原発が存在する2。2002年にピークの438基を数えてから減少傾向が続いている。世界の発電量に占める原発の割合は、1996年に17.5%を記録しているが、2019年は約10%であった。また、米国、フランス、中国、ロシア、韓国の5カ国の原発による発電だけで、世界の原発による発電量全体の7割を占めている。

     特筆すべきは、これら408基の原発の平均稼働年数が30年を超えているということだ。270基が31年以上稼働しており、うち81基は41年を超える老朽原発だ。シュナイダー氏らは、現在の原発新設の数を2倍以上に増やさない限り、現状の原発の発電容量を維持するのは不可能と試算している。

     現在、世界で建設が進められている新規原発事業は約50あり、そのうち30以上に1年以上の遅延が見られている。中には10年単位で遅延するプロジェクトもある。例えばフィンランドのオルキルオト第三原発は2005年に建設を開始し、2009年に稼働開始予定であったが、2021年3月現在も遅延し続けている。最新の遅延の理由としては、技術的な問題の発覚、スペアパーツ不足などがあげられている3。また、遅延に伴い生じたコストの増加についてはTVO(フィンランド産業電力)と事業を請け負う仏・アレバと独・シーメンスの企業連合の間で訴訟にも発展し、後者がTVOに対し追加コストや賠償など約4億5000ユーロ(約600億円)に当たる額を支払うことになっている4

     廃炉については、これまでに建設された原発のうち189基がすでに閉鎖しているが、うち完全に廃炉されたものは20基であり、廃炉にかかる時間は平均20年、長いもので約40年だった。

    世界の原発の稼働数と閉鎖数の推移1954年から2019年
    出典:世界原子力産業状況レポート2019年版(34ページ)

    相次いで破綻する原発輸出

     国際的に再生可能エネルギーが急速に拡大し、原発から撤退する国が相次いでいる一方で、日本は原発再稼働や新型炉の開発を続けている。また、2011年の原発事故後も、国策として原発輸出を推進してきた。

     輸出に関してはアラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、インド、ベトナムなどに対し、トップセールスが繰り広げられた。しかし、国税をつぎ込み、オールジャパンで進めた原発輸出は、コストの増大や相手国の国民の反対などから相次いで破綻。原発はリスクの高いビジネスであることを示した。

     最近の例では、日立製作所による英国ウェールズへの原発輸出は、採算がとれないこと、ビジネス・パートナーが見つからなかったことなどにより撤退を余儀なくされた。

     この事業では、日立の完全子会社ホライズン・ニュークリア・パワー社が、ウェールズ北部のアングルシー島に原発を2基建設する予定であったが、2019年1月、日立製作所の臨時取締役会で事業の凍結が決定された。日立はかねてから、①必要な許認可の取得、②採算性の確保、③事業への出資比率を下げ日立本社の連結決算から外すこと⸺の3つを事業継続の条件として掲げていた。今回、凍結が決定されたのはこれらの条件が整わなかったためである。その一年後の2020年には事業からの完全撤退を決定した。

     本事業を巡っては、事業費3兆円という巨額のコストを誰が負担するのかという点が大きな問題であった。当初、英国政府や日本の政府系機関などが事業に直接出資し、政府保証のついた融資を行う計画が報道されていた。日立製作所の中西宏明会長は「両政府のコミットメントがなければ、事業は進められない」と述べ、政府の支援を要請している。しかしこれは、一民間企業だけでは負えないリスクを政府が肩代わりし、最終的には日英両国の国民に転嫁することにほかならない。

    また、事業の採算性を確保するため、日立製作所は英国側に高価な買取価格を求めていた。電力市場価格はおよそ40~50ポンド/MWhで推移。一方、英国で現在建設中の別の原発からの電力買取価格は92.5ポンド/MWhで、その2倍近い価格であった。日立製作所の求める価格も電力の市場価格の約2倍と予想されたことで、英国民の批判の声も大きかった。

    世界で進む脱原発

     福島第一原発事故以降、原発衰退の流れは決定的になったと言ってもいいだろう。前述のように原発新設のスピードは遅く、リスクが大きく採算の取れない原発から撤退を決める国も増えた。

     ヨーロッパでは、オーストリアやイタリアのように国民投票で原発を禁止した国、ドイツのように脱原発を政策決定している国がある。最も原発市場が活発と言われているのがアジア地域であるが、計画の遅延や撤回、脱原発などが相次ぐ。

     2016年11月、日本の原発輸出相手国であったベトナムが原発計画を白紙撤回し5、2017年1月には台湾が脱原発を決定した。ただし、その後台湾では住民投票で、脱原発の撤回という民意が示された。韓国も、ムン・ジェイン大統領のもと、脱原発方針を決定6。インドネシアは原発計画を凍結中で、早くても2050年までは計画を進めないとしている。タイもマレーシアも原発計画を延期している。シンガポールは2012年に原発を選択肢から外した。中国は2020年までに原発の発電容量を58GWまで拡大するとしていたが、2021年現在49GWと計画は遅れている7

     原発新設に関心を持つ国々もあるのは事実だが、順調に進んでいるとは言い難い。エジプトやヨルダンはロシアの支援を受け、原発新設計画を進めている。エジプトは4基の原発の建設を計画しているが、建設コストは300億米ドル、日本円にして3兆円を超えると試算されており、その大半がロシアへの債務となる8。ヨルダンは実施可能性調査(フィージビリティスタディ)を行ったがその後、コストがネックとなり原発建設に進めていない9

     再生可能エネルギーのコストは明確に減少している一方、原発のコストは上昇している。金融コンサルタントのラザードが行っている調査によれば、原発の発電コスト(均等化発電原価、LCOE)は過去10年で33%上昇し、風力は70%減少している10

    小型炉は未来の原子力か?

     日本政府は小型炉、高速炉や高温炉などいわゆる「次世代原子炉」の研究開発を推進しようとしている。英国でもコストが小さいとされる小型原子炉(SMR)の研究・導入が進められており、前述のヨルダンも大型よりコストが抑えられるとされる小型炉の導入に関心を示している。しかし、小型炉は「未来の原子力」になりえるのだろうか。

     小型炉も高速炉も、コンセプトとして新しいものではなくすでに数十年におよび研究が進められている。しかし、技術的困難さやコストの問題から放棄された計画が多く、実証化の目処は立っていない。さらに政府は、小型原子炉は民間主導でコストが安いことを魅力の一つとしているが、実際には補助金漬けのプロジェクトばかりだという11

     既存の原発が抱える放射性廃棄物、事故やテロリスク、被ばくなどの問題を根本的に解決する技術であるわけではなく、これに多くの公的資金や税金を投じるべきかは大いに疑問だ。


    注1: Schneider et al, (2020) “World Nuclear Industry Status Report 2020” https://www.worldnuclearreport.org/-World-Nuclear-Industry-Status-Report-2020-.html
    注2:その後アラブ首長国連邦、ベラルーシで初の原発が稼働し商業運転間近と伝えられている。またWNISRでは長期閉鎖している原発を408基の中にカウントしていない。
    注3:World Nuclear News “Further delay in commissioning of Finnish EPR”(2020年8月28日)https://world-nuclear-news.org/Articles/Further-delay-in-commissioning-of-Finnish-EPR
    注4:原子力産業新聞「フィンランドTVOの株主、オルキルオト3号機の完成に向け4億ユーロの追加融資に同意」(2020年12月18日)https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/5817.html
    注5:ベトナムの原発輸出について詳しくはこちら
    注6:詳しくはFoEJapan報告書「韓国・脱原発を求める人々の力」(2018年2月)http://www.foejapan.org/energy/world/180206.html
    注7:World Nuclear Association “Nuclear Power in China”(2021年2月15日閲覧)https://www.world-nuclear.org/information-library/country-profiles/countries-a-f/china-nuclear-power.aspx
    注8:AFPBB「エジプト初の原発建設、ロシアと契約締結2026年までに稼働開始へ」(2017年12月12日)https://www.afpbb.com/articles/-/3155044
    注9:WNISR p113
    注10:Lazard,“LAZARD’SLEVELIZEDCOSTOFENERGYANALYSIS―VERSION14.0”(2020年10月)https://www.lazard.com/media/451419/lazards-levelized-cost-of-energy-version-140.pdf
    注11:松久保肇「縮小する原発産業小型原子炉は未来の原発か?」(2020年11月11日)https://www.foejapan.org/energy/fukushima/pdf/20201111_matsukubo_jp.pdf

    (『福島の今とエネルギーの未来2021』)

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