原発は気候変動対策になるのか?

    福島の今とエネルギーの未来

     近年、日本に住む私たちも気候変動の影響を肌で感じる機会が増加している。毎年のように記録的豪雨や高温に見舞われ、たくさんの命が失われている。気候変動はもはや未来の話でも、遠い国の話でもなくなっている。

     産業革命期以降、地球の平均気温は約1℃上昇した。日本の平均気温もこの100年ほどで、約1.2℃上昇している。サンゴの白化、熱波や威力をます台風による農産物への被害、一部では極端な大雪が降る一方で、他のところでは降雪量が減りスキー場がオープンできないなど、私たちの生活・食・文化・経済活動、様々な面で気候変動の影響が現れている。2018年、西日本を中心に広い範囲で発生した豪雨(平成30年7月豪雨)や2019年の台風第19号など、気候変動が被害激化の一因となっていることを気象庁も発表している1

     気候変動の影響を抑えるべく、国際社会は長年気候変動対策に関する国際的な枠組みを議論してきた。2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で、パリ協定が採択され、気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求すること、そのために途上国含むすべての国が温室効果ガスの削減に取り組むことが定められた。

     2018年10月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がまとめた「1.5℃特別報告書」によれば、1.5℃目標達成のためには、温室効果ガス排出を2030年までに2010年比で45%以上削減し、2050年までに実質ゼロにする必要がある。

     日本でも2020年10月、菅首相が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という目標を掲げた。菅首相は、原発は温室効果ガスの排出が他の電源に比べて少ないことから、脱炭素化の選択肢に含めることを認める発言をしており、同年12月に発表された経産省の2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略にも、安全性を確保しつつ原発を活用すると明記されている。

     気候変動対策として進められる政策や事業の中には、環境破壊や人権侵害などを引き起こす事業、もしくは本質的に気候変動対策にならないものが少なからず含まれている2。原発はその最たるものである。危険で処理方法すら決まっていない放射性廃棄物を生み出すこと、被ばく労働を伴うこと、発電に伴うコストが高いことなどだけを考えても、原発は気候変動対策としては不適切である。

    原発推進は温室効果ガス削減につながるのか?

     日本では1960年代から原発が推進されてきたが3、原発が増加の一途をたどった約50年間、日本の温室効果ガスは増加の一途をたどってきた。原発は「大規模集中型の電力多消費社会」を維持し、再エネや省エネの促進のための対策を妨げてきたとも考えられる。原発がほとんど稼働していない2014年以降、日本の温室効果ガス排出量は減少傾向にある。

     また、原発のリスクやコストが甚大であることは世界的に認識されている。このため、京都議定書の元に成立したクリーン開発メカニズム(CDM)4の制度の中で原発を使うことは認められなかった。

     原発を気候変動対策に位置付けている国も多くはない。2020年現在、原発を利用している国は31か国5だが、そのうち、ドイツや韓国、台湾、スペインなどは、脱原発方針を有しているか、または新設計画がないため、いずれは原発がゼロになる。世界的に見ても、原発は減少傾向にあり、世界の発電に占める原発の割合は大幅に減ると予測される6

    気候変動に脆弱な原発

     原発は冷却に大量の水を使うため、世界の原発の多くは海岸線や河川近くに建設されている。そのため、熱波による冷却水不足、海面上昇や大型台風・サイクロンによる浸水リスクが指摘されており、実際これらにより原発の停止を強いられるケースが出てきている。例えば、2019年、フランスでは高温により原発のための冷却水が確保できず、運転を停止。フランスでは少なくとも2003年、2006年、2015年、2018年にも同じ理由で原発が停止した7。また、原発はひとたび事故や災害、なんらかのトラブルで停止すれば、広範囲にわたり電力供給に影響を及ぼすという脆弱性を有している。

     リスクが大きく経済性も失われている原発に投資を続けるのではなく、電力需要の削減や、小規模分散型の再エネを調整しながら使っていく技術に投資を行うべきではないだろうか。

    (『福島の今とエネルギーの未来2021』)


    注1:気象庁「特集激甚化する豪雨災害から命と暮らしを守るために」(2020年6月)https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/hakusho/2020/index1.html
    注2:たとえば、森林破壊を伴うメガソーラー事業、海外から大量の燃料を輸入するバイオマス発電事業、自然破壊を伴う堤防事業など。2015年に採択された気候変動対策に関する国際的な枠組み「パリ協定」でも、気候変動対策の際には、人権、健康についての権利、先住民族、地域社会や、世代間の衡平を尊重・考慮すべきと明記されている。
    注3:原子力委員会「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(1994年)に原子力発電が温暖化対策として有効であると明記されている。同長期計画は1956年から2000年までに計9回策定されたが、温暖化に言及されたのは、1994年のものがはじめて注4:先進国が途上国で技術支援等を行い、温室効果ガス排出削減に貢献した分を支援元の国の削減分の一部に充当することができるという制度。
    注5:IAEAPRISのデータを元にカウント。台湾含む。2020年、これまで原発がなかったベラルーシとUAEで新たな原発が稼働を開始し、2021年にも商業運転が始まると見込まれている。
    注6:WorldNuclearIndustryReport2020によると、2020年現在、世界の稼働可能な原発の408基のうち、半分以上が稼働してから30年を経過している。2割以上は40年を超える。
    注7:“NuclearPowerfeelingtheheat”Foresight(2019年8月7日)https://www.climateforesight.eu/energy/nuclear-power-feeling-the-heat/

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