世界の原発
世界原子力機関(IAEA) のデータベースによると、2022 年2 月現在、439 基( 約400GW)の商業原発が稼働し、新たに52 基が建設中だ。他方これまでに199 基の原発が閉鎖されている。439 の原発は33 カ国・地域に立地しているが、加えてこれまで原発のなかったバングラデシュとトルコの2カ国で原発の建設が進んでいる。
今は原発を保有しているが、将来的に脱原発方針を持つ国もある。例えば、ドイツは2022年まで、ベルギーは2025 年まで、スペインは2030 年までの脱原発を目指している。オーストリアやイタリアは国民投票で原発を禁止した。
最も原発市場が活発と言われているのがアジア地域であるが、計画の遅延や撤回、脱原発などが相次ぐ。
2016 年11 月、日本の原発輸出相手国であったベトナムが原発計画を白紙撤回し1、2017 年1 月には台湾が脱原発を決定した。台湾ではその後、国民投票で電気事業法に脱原発を明記することが撤回されたが、2021 年の国民投票では、第四原子力発電所の建設再開に対する反対票が多数を占めた。既存の原発についても運転期間を原則40 年としており、原発新設がストップした以上、脱原発に向かっているとみて良いだろう2。韓国でも、ムン・ジェイン大統領のもと、脱原発方針を決定3。タイもマレーシアも原発計画を延期している。シンガポールは2012年に原発を発電の選択肢から外した。
原発新設に関心を持つ国々もあるが、順調に進んでいるとは言い難い。エジプトやヨルダンはロシアの支援を受け、原発新設計画を進めている。エジプトは4 基の原発の建設を計画しているが、総建設コストは300 億米ドル、日本円にして3 兆円を超えると試算されており、その大半がロシアへの債務となる4。ヨルダンは原発建設計画の実施可能性調査を行ったが、その後、事業費が高騰したことで建設に至っていない5。
小型原子炉に対する期待の声も高まっているが、小型原子炉については特集(p.36)でも取り上げたように、既存の原発が抱える問題を解決しないばかりか、経済合理性もなく、補助金なしには事業も行えないような状況だ。将来が期待できるものではない。再生可能エネルギーのコストが下がり、放射性廃棄物や安全性の問題に加えて気候変動によって原発の脆弱性が高まる中(p.18)、原発に巨額の資金をつぎ込むのは経済的にも社会的にも問題である。
原発輸出の破綻
国際的に再生可能エネルギーが急速に拡大し、原発から撤退する国が相次いでいる一方で、日本は原発再稼働や新型炉の研究開発を続けている。原発事故後も、国策として原発輸出を推進してきた。
例えば、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、インド、ベトナムなどに対し、首相や外相などがトップセールスを繰り広げた。国税をつぎ込み、官民をあげて進めたものの、事業費の増大や相手国の国民の反対などにより相次いで破綻した。
もっとも最近の例は、英国への原発輸出の失敗だ。日立製作所の完全子会社ホライズン・ニュークリア・パワー社が、ウェールズ北部のアングルシー島に原発を2 基建設する予定であったが、地元の住民は事故のリスクや、自然環境への影響などから、長年反対運動を続けていた。
日立製作所はかねてから、①必要な許認可の取得、②採算性の確保、③事業への出資比率を下げ、日立本社の連結決算から外すこと-を事業継続の条件として掲げていた。特に、事業費3兆円という巨額のコストを誰が負担するのかという点が大きな問題となった。当初、英国政府や日本の政府系機関などが事業に直接出資し、政府保証のついた融資を行う計画が報道されていた。日立製作所の中西宏明会長(経団連会長、当時)は、「両政府のコミットメントがなければ、事業は進められないというのは共通の理解」と述べた。これは一民間企業だけでは負えないリスクを、日英両政府、すなわち両国の国民に転化するという構想だった。事業の採算性を確保するため、日立製作所は英国側に電力の買取価格を高く設定することを求めた。日立製作所の求める買取価格が電力の市場価格の約2倍と予想されたことで、英国民の批判の声も大きかった。結局、日立は投資パートナーを見つけることができずに、一社だけで巨額のリスクを負うことはできないという判断から、事業からの撤退を決めた。
EU タクソノミーと原発
新規原発建設が停滞し、脱原発を政策決定する国もある中で、気候変動対策の名の下に原発を推進する動きもある。
欧州連合は、EU 域内の 2050 年までのカーボンニュートラル達成のため、持続可能な事業を分類し投資を呼び込むための「EU タクソノミー」規則を制定した。タクソノミーとは分類法を意味し、環境的に持続可能な活動を分類し、投資を促す仕組みだ。2022 年 1 月 1 日に原発と天然ガスをタクソノミーに含めるという欧州委員会の案が発表されたのだ6。
原発とガスの扱いをめぐっては EU 加盟国内でも意見が分かれた。脱原発を目指すドイツや、オーストリア・スペインなどの国は原発をタクソノミーに含めることに反対。一方、新規原発の建設が進んでいるフランスやフィンランド、新規原発建設に関心の高い東欧諸国は原発を認めるよう求めていた。
1 月 1 日に欧州委員会が発表した案に対しては、ドイツ、オーストリアなどの国から正式な反対が表明された。また、原発事故を経験した日本の市民社会からも 261 団体が連名で EUに対し公開書簡を送るなど懸念の声が上がった7。諮問を受けた専門家委員会からも厳しい意見が提出された。
しかし、2 月 2 日に欧州委員会から原発と天然ガスを一定の条件のもとでタクソノミーの中で認めるという最終案が発表された8。今後欧州議会と欧州理事会が内容を精査する期間があるが、法案の撤回には議会の過半数が反対票を投じる必要がある。
- ベトナムの原発輸出について詳しくは https://311mieruka.jp/info/report/abandoning/
- 原子力資料情報室「台湾第四原発の建設再開を拒否する台湾市民の判断を歓迎する」2021 年 12 月 21 日
- 詳しくは FoE Japan 報告書「韓国・脱原発を求める人々の力」2018 年 2 月
- AFPBB「エジプト初の原発建設、ロシアと契約締結 2026 年までに稼働開始へ」 2017 年 12 月 12 日
- World Nuclear Industry Status Report 2020, p113
- 欧州委員会 “EU Taxonomy: Commission begins expert consultations on Complementary Delegated Act covering certain nuclear and gas activities” 2022 年 1 月 1 日
- FoE Japan「【プレスリリース】261 の日本の市民団体が欧州委員会に公開書簡「グリーン」でも「持続可能」でもない原発を EU タクソノミーに含めるべきでない」2022 年 1 月 11 日
- 欧州委員会 “EU taxonomy: Commission presents Complementary Climate Delegated Act to accelerate decarbonisation”, 2022 年 2 月 2 日