どうなる?エネルギー基本計画

    福島の今とエネルギーの未来

     エネルギー基本計画は、2002年に制定されたエネルギー政策基本法第12条の規定に基づき、政府が策定するエネルギー需給の方針を示す計画である。少なくとも3年ごとに検討を加えることとなっており、2003年10月に第1次計画、2007年3月に第2次計画、2010年6月に第3次計画、2014年4月に第4次計画、2018年7月に第5次計画が策定されている。原子力政策、気候変動政策、核燃料政策など関連する政策も含めて、エネルギー関連政策すべてのベースとなっている。

    第6次エネルギー基本計画へ―2021年の議論

     2020年10月13日から、第6次エネルギー基本計画に向けた議論がスタートした。議論開始から間もない10月26日、菅首相は所信表明演説で「2050年にカーボンニュートラルを目指す」ことを宣言した。具体的な方策や、その経過点である2030年の温室効果ガス削減目標と電源構成(いわゆるエネルギーミックス)をどうするのかが、今回の見直しの焦点となっている。以下、政府の議論の問題点を見ていく。

    電源構成(現在および2030年度目標)出典:資源エネルギー庁資料

    (1)市民参加の欠如
     エネルギー基本計画を審議しているのは資源エネルギー庁に設置されている総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(以下、分科会)である。委員構成は、2013年や2017年の見直しの際と同様、産業界に関係する委員や原発を推進してきた学識者が多数を占める。政府は、現在のエネルギー基本計画において「原発は重要なベースロード電源」とし、2030年の電源構成に占める原発の割合を20~22%としている(図)。一方で「原発の新増設については現時点では想定していない」ともしている1

     分科会では複数の委員から「新増設について明記すべき」「40年を超えた延長運転も進めるべき」という意見が強く出された。原発に否定的な世論2と乖離した議論が行われている。分科会のウェブサイト3上に「意見箱」は設置されたものの、公聴会の実施など、市民の意見を聴取しそれを反映しようとする姿勢はほとんど見られない。

    (2)福島第一原発事故被害の過小評価
     分科会の資料の「原子力災害からの福島復興」のページでは、「構内の放射線量大幅減」「廃炉に向けた作業は着実に進捗」「帰還困難区域を除くすべての地域の避難指示を解除済」「基幹環境整備の進展」など、復興の強調が目立つ。先行きの見えないALPS処理汚染水の問題(p.44参照)や、燃料デブリの取り出しなどは「残された課題への対応」として書かれるにとどまる。新潟県で取り組まれているような、避難者の生活実態や生業の喪失を含む原発事故被害の全容の検証もいまだに行われていない。

    (3)発電コストの検証が古いまま
     原子力については、「安全対策費用や事故費用、核燃料サイクル費用が増額してもなお低廉」とされているが、その根拠はいまだに2015年の「コスト検証ワーキンググループ」報告書のままだ。このとき、原発の建設費用は4,400億円としていたが、現在、建設費用ははねあがり、1兆円超にも達している。これらを踏まえて計算しなおせば、原子力発電のコストは17.6円以上となり、太陽光電力の入札価格を上回るという試算もある4。再生可能エネルギーの発電コストは国際的にも大きく低下し、石炭火力についてはすでに国際的にも廃止の必要性が高まっている。

    (4)「資源が乏しい我が国」の認識
    「資源の乏しい我が国」という表現を繰り返している。これは化石燃料やウランに限定した古い考え方であり、日本に広く賦存する再エネのポテンシャルを考慮に入れていない。一方で、ウランは全量輸入しているにもかかわらず、原子力を「準国産エネルギー」として重視する姿勢も変わらない。

    (5)不確実・高リスクな技術に依存した「カーボンニュートラル」
    2021年2月現在の議論では、2050年に再生可能エネルギーは50~60%が参考値として示され、それ以外は原子力と石炭火力も含めた火力発電を使い続ける方向だ。火力発電からのCO2排出を相殺するために、二酸化炭素回収貯留・利用(CCUS)や水素やアンモニアの発電への利用が大きく議論されているが、コスト面でも、立地などの実現可能性や環境影響の面などでも多くの課題があり、現実性は極めて低い。

    (6)ビジョンの欠如、「これまでの体制」維持
    2050年に関する議論が行われているものの、CO2排出の面だけでなく、社会全体としてどのような方向性を目指していくのかのビジョンについては、ほとんど語られず、エネルギーや電力の大量消費を前提とした既存の産業や技術をいかに守るかという観点での議論となっている。

    エネルギー政策に市民の声を

    eシフトやCANJapanのほか、若者団体などと一緒に、2020年12月にエネルギー基本計画見直しに声を上げるキャンペーン「あと4年、未来を守れるのは今」をスタートさせました。若者や、原発事故や気候危機の当事者などの声を様々なかたちで伝えるとともに、署名や経産省への意見提出などを呼びかけています。若い世代がSNSを活用したりデザインやアイディアを出すなど、これまでにない動きとなっています。詳細は:http://ato4nen.com/


    注1:たとえば最近では2020年11月4日、衆議院予算委員会における菅首相の発言など。
    注2:原子力文化財団「2019年度原子力に関する世論調査」ほか
    注3:https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/
    注4:大島堅一氏(龍谷大学教授)の2018年試算による。東京新聞「<原発のない国へ基本政策を問う>(1)英原発高コスト浮き彫り」(2018年7月14日)朝刊

    (『福島の今とエネルギーの未来2021』)

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