電力市場価格の高騰で明らかになった大手電の市場支配

    福島の今とエネルギーの未来

    国際環境 NGO FoE Japan 吉田明子

    2022年12月、電力システム改革や電力自由化の意味を改めて考えさせられる、大手電力による不正が明らかになった。12月初旬には関西電力と中部電力、九州電力、中国電力が2018年秋以降にそれぞれ結んでいたカルテルに対し処分が行われた。企業向けの特別高圧や高圧を対象に、互いに相手の管轄区域で顧客獲得を控えるよう示し合わせていたというのである。公正取引委員会は12月14日、1年かけて大規模な調査を行うと発表した。

    12月末には、関西電力の小売部門の社員が、送配電部門の分離で子会社となった関西電力送配電が持つ新電力の顧客情報を、不正に閲覧していたことがわかった。電力システム改革で、各大手電力の送配電部門は2020年度までに子会社として分離し、中立、公平な運営を行うことが求められていた。顧客情報は言うまでもなく厳重に管理すべきものであり、親会社の小売部門に漏洩することは電気事業法違反である。不正閲覧は、2016年の小売全面自由化開始から、2022年まで6年半以上にわたって続き、一部営業活動にも使われていた。2023年1月にはさらに東北電力、九州電力、四国電力、中部電力、中国電力でも同様の不正閲覧があったことが判明した。

    電力システム改革・電力自由化に逆行するような不正が2016年から6年半以上にわたって続いていたということであり、公正・公平な自由競争の状況ではなかったことが公となった。重大な問題であり、経済産業省も何らかの処分を検討している。

    新電力を苦しめた大手電力の取り戻し営業

    2016年4月の電力小売全面自由化以来、多くの新電力が参入し、2023年1月現在で小売電気事業者登録は700社以上となっている。しかし、大手電力と新電力との圧倒的な経営格差はたびたび指摘されてきた。2018年頃には、新電力各社から大手電力の「取り戻し営業」に対する悲痛な声が伝えられていた。新電力による営業の結果、新電力への切り替えを決めた需要家のもとに、数日後に大手電力から電話が入り、より安い価格提案が行われて契約を取り戻されるというものだ。

    この背景にも、送配電部門から小売部門への顧客情報の共有が疑われていたが、今回それが少なくとも一部事実であったことが示された。「ようやく」ではあるが、歪んだ電力システム改革を見直すための重要な一歩とも言える。電力ガス取引監視等委員会や公正取引委員会による今後のさらなる調査や厳正な処分が求めらる。

    続く電力市場価格高騰

    大手電力と新電力の経営格差は、別のところにも現れている。2020年12月下旬から1月中旬にかけて、電力の市場価格が異例の高騰となった。その後、若干の制度変更などが行われたものの、2021年末から2022年にも再び高騰が起こった。電力市場価格は、2016~2020年度は年平均でkWhあたり10円程度の価格であった。それが2022年3月には、一部エリアで一時80円、6月や8月にも一時200円まで高騰し、秋から冬にかけても2016~2020年度の平均と比べ2倍以上の価格が続いた。2023年冬にはやや落ち着いてきたが、深夜や早朝でも20円程度という高値傾向がなお続いている。

    電力の販売価格は、家庭向け(低圧)で1kWhあたり25~30円、企業向け等(高圧)で15~20円程度である。電気料金は、電気そのものの価格、託送料金、小売電気事業者の事務費用の3つから成っている。電気の調達方法には、自社や他社の発電所から調達、他の電力会社から調達、電力市場から調達などの方法がある。電力市場からの調達が多ければ、それだけ経営に影響することとなる。

    大手電力の実質的支配と再エネ新電力への影響

    市場価格が高くなっている原因は、国際的な化石燃料価格の高騰が一因だが、それだけではない。大手電力が大規模電源のほとんどを所有し、化石燃料の調達もしている状態で、自社の利益を最大化する行動をとっていることが高騰を引き起こしているのだ。経済産業省は、自由競争だからそれは当然のことだとして容認している。しかし、大手電力が大規模電源を建設・所有することができたのは、自由化以前にすべての消費者の電気料金や補助金など国の政策で支援されてきたためである。顧客の大部分も、自由化以前からの継続です。このような圧倒的な力の差をそのままにした、いびつな「自由競争」が現在の電力市場なのである。さらに、再エネを重視してFIT電気を調達する新電力はより大きな影響を受けている。それは、2017年のFIT制度改定で、小売電気事業者が発電事業者と契約を結んでFIT電気を調達する場合、その買取価格に電力市場価格が適用されることとなったためだ。

    再エネ新電力は、電源構成はそれぞれ異なるものの、FIT電気や電力市場からの調達の割合が高い場合が多く、そのため市場価格高騰の打撃を特に受けているのである。

    2022年は、再エネを重視したい新電力や地域新電力にとって、激動の年となった。「パワーシフト・キャンペーン」1が朝日新聞社と共同で2022年秋に行った新電力約90社を対象とした調査2では、回答72者の9割が「深刻な影響がある」、8割が「一時営業を停止している」とし、新電力にとっての厳しい状況が浮き彫りとなった。

    一方で、市場価格高騰を逆手に、地域の再エネの開発や調達に、自治体等と連携してより一層力を入れる決意も見てとれる。自治体・地域新電力などが何とか現在の苦境を乗り越えて、地域の再エネを活用して地域経済循環を加速させる存在として発展していくことが期待される。同時に、大手電力の不正や寡占状況が抜本的に明らかにされ、真の改革が行われることが欠かせない。

    図 電力市場の状況(パワーシフト・キャンペーンより)

    1 パワーシフト・キャンペーン:再エネ新電力の選択を呼びかける市民団体等の連携キャンペーン。事務局は FoE Japan。
    2 パワーシフト・キャンペーン、朝日新聞社「自治体・地域新電力の可能性と市場価格高騰―2022 調査報告書」2022 年 12 月 2 日 https://power-shift.org/jichitai-chiiki-2022report/

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