脱原発に進む国々

福島の今とエネルギーの未来

1.ベトナム…原発導入を撤回

2016年11月、ベトナム国会は、中南部ニントゥアン省で予定されていた原発建設計画の白紙撤回を求める決議案を可決した。同省の原発事業のうち、第一原発はロシアが、第二原発は日本が受注を予定していた。

ベトナムが今回撤回に踏み切った主要な理由は、経済的に割にあわないということだ。福島第一原発事故を経て、原発建設費用は当初見積もられていた1兆円から2.8兆円に上昇し、原発の発電単価も当初見込みから1.6倍ほど上昇した2


原発建設予定地近くの漁村にて(2011 年 11 月撮影)

「原発は経済競争力がない」–これが、ベトナムが出した結論だった。

原発建設にあたっては、日本から、「低金利かつ優遇的な融資」が行われることが合意され、国際協力銀行など政府系融資機関が担うと考えられていた。しかし、ベトナムとしては、これ以上、日本からの債務を増やすことができないという理由もあった。

「これは“勇気ある撤退”だ」と科学技術環境委員会副委員長のレ・ホン・ティン議員はVnExpress紙のインタビューで述べている。「電力需要の伸びは、原発計画が提案されていた当時の見込みより低下している。節電技術が進み、LNGや再生可能エネルギーなどが競争力を持ち始めている。今後国内需要は十分賄える。これ以上計画を進め、さらなる損失を被らないうちに早期に計画を中止する必要がある。」

2.台湾

2017年1月、台湾立法院で電業法の改正案が可決され、現在稼働している原発の寿命延長を行わないこと、40年運転ののち順次停止をすること、すなわち、2025年までに脱原発することが同法に明記された。さらに、再生エネルギー分野での電力自由化を進めて民間参入を促し、再生エネの比率を現在の4%から2025年には20%に高めることを目指すとした。台湾では、1987年の戒厳令の解除以降、脱原発を求める市民たちの運動が盛り上がり、息の長い運動が続けられている。

その後、2018年に、国民投票で「2025年までの脱原発政策」の是非が問われ、脱原発方針の撤回賛成が反対をわずかに上回った。しかし、4箇所ある原発のうち、第1、第2原発は運転延長申請期間がすでにすぎており、また第3原発に関しては地元首長が稼働延長に反対している。また第4原発は、建設再開に予算編成が必要だ。国民投票では、残念ながら「2025年までの脱原発」政策を否定する結果が出てしまった。しかし台湾政府としては、「脱原発」するという基本方針に変更はなく4、翌2019年に脱原発政策は変更しないと発表した5

3.韓国

韓国には稼働中の原発が24基、建設中のものが4基、計画中のものが6基あり、全発電量の30%を原発が占める。ムン・ジェイン大統領は(1)建設中の原発の建設中止、(2)計画中の原発の白紙撤回(3)設計寿命の延長はしない、(4)脱原発ロードマップを作成する-などの公約を掲げたが、建設中の新古里5・6号機については「公論化プロセスにより、結論を出す」とした。ムン・ジェイン大統領は、あえて公約を後退させ、建設中止について自ら結論を出すのではなく、「公論化プロセス」に託した。

国民の圧倒的な支持で当選したムン・ジェイン大統領は、2017年6月19日、寿命を迎えた古里1号機の停止式典で、脱原発宣言を行ったが、建設中の新古里5・6号機については、「公論化プロセスにより、結論を出す」と公約よりも後退した発言であった。

新古里5・6号機は、すでに建設が30%進んでおり、建設を中止するにはもっとも議論をよぶものであった。事実、地元の住民も、建設作業で雇用されていたり、補償金が支払われたりしており、今から中止することに関して抵抗が強かった8。ムン・ジェイン大統領は、あえて公約を後退させ、建設中止について自ら結論を出すのではなく、「公論化プロセス」に託した。

公論化プロセスは、2017年7月から3カ月行われた。公論化委員会が形成され、建設の賛否の双方の意見を資料集に記述。2万人の一次世論調査が行われ、回答者の中から、地域・性別・年齢などを考慮されて500人の市民参加団が選出された。このうち、471人が、事前学習を行い、総合討論会に参加し、最終アンケート調査に回答した。結果は、建設中止が40.5%、建設再開が59.5%。これを受け、政府は、新古里5・6号機の建設続行を決めた。なお、新古里5・6号機の建設に関しての問いに加え、原発を将来的にどうしていくのかということも問われたが、これに関しては、「原発を縮小すべき」という意見は53.2%を占め、「拡大すべき」9.7%、「維持すべき」35.5%を大きく上回った。

設計寿命が60年もある新古里5・6号機の建設続行により、韓国が脱原発を達成する時期は大きく遠のいた。

しかし、ムン・ジェイン大統領は、脱原子力関係の公約として掲げたその他の項目、「新規の原子力発電所建設計画の全面白紙化」と「月城1号機を出来るだけ早期に閉鎖」は実行すると発言しており、さらに寿命になる前でも電力需給に支障をきたさないことが判明すれば、政策的な閉鎖措置をとる根拠を設けるとしている7

(『福島の今とエネルギーの未来2020』)


  1. 満田夏花「もう原発の時代じゃないという世界の潮流~原発から撤退する国々としがみつく日本」イミダス(2018年1月5日)
  2. 「多くの国会議員が原発計画中止に賛成」VnExpress(2016年11月10日)
  3. 「台湾 脱原発を勝ち取った人々の力」(FoE Japan、2017年9月)
  4. FoE Japan “台湾の脱原発に「待った」!? 脱原発政策の行方 ”https://foejapan.wordpress.com/2019/01/28/taiwan-2/
  5. 2019年1月31日・毎日新聞「台湾、脱原発方針を継続「民意無視」の反発も」
  6. FoE Japan 報告書「韓国・脱原発を求める人々の力」 2018 年 2 月 http://www.foejapan.org/energy/world/180206.html
  7. ハンギョレ紙インターネット版 2017年7月22日付「脱原発ロードマップに「月城1号機廃炉」盛り込まれる見込み」
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