日本政府は「気候変動対策」の一つとして、原発の再稼働を推進しています。
しかし、そもそも原発は気候変動対策として有効なのでしょうか?
私たちは以下の5つの点で、原発は気候変動対策にならないと考えています。一つ一つみていきたいと思います。
原発から出る「核のごみ」の問題
原発を稼働させると、使用済み核燃料が発生します。日本では、この使用済み核燃料を「再処理」して、ウランとプルトニウムを取り出し、新たな燃料を生産するいわゆる「核燃料サイクル」を政策として推進しています。
「再処理」の過程で、使用済み核燃料を切断し、硝酸で溶かしてプルトニウムとウランを回収します。この工程で人が近づけないような高レベルの放射性廃液が発生します。この廃液をガラス原料とまぜ、ガラス固化体にして処理をすることになっているのですが、ガラス固化体は強い放射線を発し、製造直後の表面温度は200℃を超えます。このため、専用の貯蔵施設で30〜50年間冷却し、その後、搬出して300メートル以深の地層中に処分されることになっているのです。このガラス固化体を一般的に「核のごみ」と呼びます。
再処理は青森県にある六ヶ所村再処理工場で行うことになっていますが、1993年に建設が開始され、1997年に完成する予定が、25回も完成が延期されています。当初約7,600億円だった建設費は、4倍の約2兆9千億円に膨れあがり、ランニングコストや廃止措置を含めた事業総額は約13.9兆円にものぼります。これは私たちの電気料金から支払われます。事故も多発しています。
今後何万年も管理が必要な核のごみを生み出し続けることは、将来世代に負担を残すことに他なりません。加えて、核のごみの最終処分地すらまだ決まっていないような状況です。
原発はトイレなきマンションなのです。
他にも核燃料サイクルにはさまざまな問題があります。
この点についてさらに詳しくはこちら:六ケ所再処理工場と核燃料サイクル
原発の電気は高い
日本では、長年原発の電気は安いとされてきました。しかし、それにはからくりがあります。
例えば、2014年に経済産業省が出したコスト計算では原発がLNGや石炭火力よりも安くなっていますが、政府の2014年時点の試算は原発の建設コストを4,400億円としていました。しかし、これは現実よりもかなり過小評価した見積もりです。国際的にみても原発の建設費が1兆円を超えるケースが増えています。それを反映すると、原発の発電単価は高くなります。
2011年以降、多くの原発が停止しています。一方、停止している間も維持費はかかります。
原子力資料情報室が有価証券報告書などを用いて計算した結果、10兆円以上もかかっていたことがわかっています。
さらに原発事故後、原発の安全対策が強化され、安全対策にかかる追加コストも増えました。電力11社の合計で少なくとも5.2兆円と計算されています。
また、福島原発事故で被った被害は、金銭ではかれる物ばかりではない上に、原発事故の被害総額は巨額です。放射性廃棄物の処理コストも、どこまでかかるのか見通せません。
国際的にみても再生可能エネルギーの価格が下がるなか、原発のコストは上昇しています。
つまり、原発は高いのです。
原発は不安定でリスクが大きい
2011年の東日本大震災とそれに続く津波により、福島第一原発はすべての電源を失い、炉心が冷却できなくなりました。原子炉建屋が相次いで爆発し、今も多くの人たちが避難を強いられています。
事故前に54基あった原発は相次いで停止しました。いくつかが再稼働されましたが、その後も安全対策の遅れや訴訟などで停止している原発もあります。
全国各地で原発をめぐる裁判や、トラブル、事故やデータ改竄などが相次いでいます。技術的にも、社会的にも原発が安定しているとはとても言えない状況です。
また近年、気候変動による原発への影響も注目されています。
原発は冷却に大量の水を使います。そのため世界の原発の多くは海岸線や河川近くに建設されています。近年異常気象が頻発するようになり、熱波による冷却水不足、海面上昇や大型台風・サイクロンによる浸水リスクが高まっています。実際、これらの原因により原発の停止を強いられるケースが出てきています。
例えば2019年、フランスでは高温により原発のための冷却水が確保できず、運転を停止しました。フランスでは少なくとも2003年、2006年、2015年、2018年にも同じ理由で原発が停止しています。
ウラン採掘から運転、廃棄まで、深刻な原発の環境社会影響
原発の燃料はウランを原料として製造されます。ウラン採掘の現場では、汚染や人権侵害などの深刻な環境社会への影響があとをたちません。オーストラリアのウラン鉱山では、自然が破壊され、採掘により先住民族の土地や水が汚染されています。
原発を運転するためには、どんなに機械が近代化したとしても、放射線を浴びながらの作業に従事する原発作業員の存在が不可欠です。防護服や防護マスクなどの安全対策はとっていたとしても、彼らは常に健康上のリスクを負うことになります。これらの人たちは、電力会社の社員ではなく、下請け、孫請けの何層にもわたる受注先の会社に雇われている場合が多く、劣悪な労働条件のもと、安い賃金で働いています。たとえ被ばくにより健康を害したとしても、労災が認められるとは限りません。
原発などの核施設からは、どうしてもトリチウムなどの放射性物質が出てしまいます。とりわけ、再処理施設からは膨大な量の放射性物質が放出され、周辺の環境が汚染されます。
原発は、都市から遠く離れた地域に建設される一方で、原発で発電された電気は主に都市部で使われます。福島第一原発の電気は、福島ではなく首都圏で使われていたのです。事故は、福島および近隣地に大きな影響をもたらしました。
これらを考えると、原発は社会的な歪みや不平等の象徴ともいえるものではないでしょうか?
原発がなくても日本ではCO2が減った
グラフは経産省のデータなどを元に原子力資料情報室が作成したものです。電源別の発電電力量と発電によるCO2排出量の推移を示しています。
これを見ると、福島第一原発事故後、ほとんど原子力発電が稼働していなかった時期、ガスや石炭による発電電力量が増えたにもかかわらず、温室効果ガスの排出量が減少しています。理由として、省エネが進んだことと、再エネが少しずつ増えてきたことが挙げられています。一方、原発からの電力供給が増加の一途をたどった1960年代以降、電力消費もCO2排出量も増える一方でした。
再エネ100%は可能
世界的に、太陽光や風力の設備容量はすでに原発を上回っています。再生可能エネルギーへの投資も進み、コストも下がっています。
日本でも需要の100%を再生可能エネルギーで賄えるエリア、時間帯が出てきています。
太陽光などの変動型の再生可能エネルギーを、揚水発電や他地域との電力の融通でうまく調整する仕組みも進みつつあります。
2050年までに再エネ100%を実現するシナリオが、複数のNGOやシンクタンクによって作成されています。
再生可能エネルギーの拡大や、省エネルギー、社会のあり方を抜本的に変えていくことこそ、気候変動対策に求められています。