ドイツの脱原発のゆくえ

    福島の今とエネルギーの未来

    FoEドイツ(BUND:ドイツ環境自然保護連盟)ヤン・ヴァローデ

    福島第一原発の事故から12年となる2023年1月、ドイツでは3基の原子力発電所が稼動している1。東日本大震災に伴う日本の原発事故は、当時のドイツ首相アンゲラ・メルケルに原子力政策の再考を迫った。物理学の博士号を持つ彼女は、「原子力のリスクは制御しきれない」と発言した。ドイツの脱原発は2022年末までに実施されることになっていた。しかし、最後の3基の原子炉の停止は、現在4カ月延期されている。ドイツの多くの人々は、核のリスクについ終止符を打つべきあると明確に認識し、これ以上の寿命延長に反対している。今年の3月11日には、ドイツでも多くの人が再びデモを行うだろう。原子力産業は、2022年2月のロシアのウクライナに対するひどい侵略戦争がおこるとは当然予想していなかった。戦争を想定して造られた原子力発電所は、世界中に1つもない。そのため専門家は、ウクライナの原子力施設をいっそうの危機感をもって注視している。誤爆や長時間の電源喪失、冷却装置の故障などが、欧州全域に影響を及ぼす核の大惨事を引き起こす可能性がある。欧州最大の原発であるザポリージャ原子力発電所の状況は、依然として不透明だ。国際原子力機関(IAEA)は、欧州での原子力災害の可能性をもやや否定していない。

    デタラメな議論

    こうした中、ドイツの一部の政治家や産業界の代表、ロビイストらが原発の運転期間の延長を求め、連邦政府が最後の3基の原発を長く稼働させようとしている。福島での大惨事は、原子力発電のリスクがいかに大きいか、そして、世界的にいつまた大事故が起きてもおかしくないことを明らかにした。震災からわずか3カ月後の2011年夏、当時の連邦政府は2022年末までに最終的に原発を廃止することを決定したのである。それに基づいて7基の原子炉は直ちに停止され、2021年までにさらに6基の原子炉が停止された。最後に残っているのは3基である。

    ロシアによるウクライナ侵攻で、ドイツのエネルギー政策が試されることとなった。ドイツは輸入エネルギーに大きく依存している。一次エネルギー供給の約77%、天然ガスの94%が海外から輸入されている。ドイツの天然ガスのほぼ6割はロシアから輸入していた。ロシアへの制裁の議論では、このガスをどのように代替・節減するかが問題となった。原子力産業と保守・リベラル派の政治家は、原子力が解決策であることにすぐに合意した。しかし、原子力はガス火力に取って代わることはできないことは、調査や分析で示されている。また、原子力発電所の運転が継続されても、エネルギー価格に大きな影響を与えることはない。そのため原発を推進する各層は、欧州のエネルギー安定供給を重要な理由として挙げている。

    危機的状況にあるフランスの原子力

    2022年夏に欧州の電力市場が緊迫していたのは、フランスのエネルギー政策にも原因があった。長い間、原子力推進派がドイツの脱原発を間違いであるとか、エネルギー政策の「独走」であるなどとを糾弾する際、フランスを引き合いにだしていた。合計56基のフランスの原子炉によって、温室効果ガスの削減にも貢献し、欧州のエネルギー安定供給を保証するものであると考えられていた。しかし実際には、フランスの原子力推進政策は行き詰まっている。原子炉の平均年数は35年を超え、確実に老朽化が進んでいる。わずか1基の原発の新規建設も大失敗している。核廃棄物の中間貯蔵施設はすべて溢れ、原子力産業は多額の借金を抱えている。昨年フランスは、第二次世界大戦後最大のエネルギー危機を経験した。2022年初めから、フランスの原子炉は危険な腐食損傷や、安全点検、干ばつによる冷却水不足などの理由で立て続けに停止、数ヶ月にわたり約半数の原子炉が停止している。そして、その影響を受けているのは、これまで電力需要の約70%を原子力発電でまかなっていたフランスだけではない。この状況は、欧州の電力市場の価格も押し上げている。フランスは現在、近隣諸国からの電力供給に大きく依存している。

    リスクの高いドイツの原発の運転延長

    そのためドイツでは、フランスの状況が変わらなければ、冬には欧州の電力網を安定させるためにドイツの原発が必要になると主張された。結局、反原発運動から生まれた政党であるはずの、よりによって緑の党出身の経済大臣が、ドイツの最後の3つの原子力発電所の2023年4月までの運転継続を認めた。現在3つの原子力発電所では、原子炉内の既存の燃料棒の使用期間を数ヶ月延長し、運転が行われている。段階的に出力を落としながらより長く発電する。しかし、原子力発電所の運転を継続するリスクは、それで生まれる小さなメリットには見合わない。ドイツの原子力発電所も安全ではない。2基の原子炉で蒸気発生器の重要なパイプ数百本に亀裂が発見され、残る1基は検査ができない状態だ。最悪の場合、メルトダウンを引き起こす可能性さえある。

    原発の稼働延長に抗議するドイツの環境グループ

    原発への抗議は続く

    連邦政府が原子力発電の4カ月の運転継続を決定したことで、脱原発という社会的なおおかたの合意が脅かされている。ドイツは脱原発に合意することで、数十年にわたる社会的対立を和らげ、エネルギー転換を始めることができた。一度迷走した核廃棄物の最終処分場探しを再開する唯一の方法でもあった。社会的、環境的な変革のためには、このような社会的合意がもっとたくさん必要である。例えば、化石燃料の段階的な廃止、エンジン自動車の廃止、ガス暖房器具の禁止などだ。政府は、社会の信頼を軽々しく弄ぶことがあってはならない。エネルギーの転換、エネルギー効率化、自然と調和した形での再生可能エネルギーの急速な拡大が、未来志向で健全かつ安定したエネルギー供給のための中心的なカギとなる。特に再エネの電気は、原子力発電よりはるかに安い。核廃棄物の処理や安全な保管のための追加費用を考慮すればなおさらである。

    この冬は、ドイツに原発は必要ないことを確実に示している。エネルギー供給と価格は安定し、原発の運転延長は必要なかったはずだ。とはいえ、まだやるべきことはたくさんある。すでに一部の政治家は、新しい燃料棒の原子炉への装填やドイツの原子力発電への復帰を要求している。また、ドイツはウラン工場での燃料生産を無期限で継続し、世界中の原子力発電所に供給している。今年の3月11日には、何百もの都市で追悼集会やアクションが計画されている。各地の人々は、福島の事故を追悼し世界全体の脱原発を要求する。原子力と化石燃料は一刻も早く過去のものにしなければならない。


    1 本原稿は 2023 年 1 月時点に執筆されたものです。その後、4 月 15 日、ドイツでは、最後まで稼働していた 3 基の原発が送電網から切り離され、脱原発が達成されました。

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