9基が再稼働するが…
福島第一原発事故前に原発は54基あった。事故後、東京電力・東北電力が有する原発はすべて停止し、東日本では「原発ゼロ」の状況がすでに10年間継続している。
2012年9月に原子力規制委員会が発足。2013年7月に新規制基準が制定され、電力会社は、原発を再稼働させる場合、新規制基準に基づく原子力規制委員会の審査を受けることとなった。2013年9月関西電力の大飯原発3・4号機が停止して以来、ほぼ2年間、全国の原発が停止し、原発ゼロの期間が続いた。2021年2月10日現在、規制基準に合格し、再稼働した原発は、川内原発3・4号機、玄海原発3・4号機、伊方原発3号機、大飯原発3・4号機、高浜原発3・4号機の9基。
このうち、2021年2月10日現在、実際に稼働している原発はわずか4基だ。
いったん再稼働した川内原発、高浜原発の4基は、テロ対策施設(特定重大事故等対処施設)1の建設の遅れにより、2020年には停止に追い込まれた(その後、川内原発は再稼働)。定期点検中の伊方原発3号機は、広島高裁による運転差し止め判断で、定期点検が終わっても運転再開できない。また、12月4日、関西電力大飯原発3・4号機をめぐり、住民が原子炉設置許可の取り消しを求めた訴訟について、大阪地裁は住民側の訴えを認め、国に設置許可の取決は確定していないため、ただちに大飯原発の運転が止まるわけではないが2、今後、全国の原発に波及する可能性がある。
2019年および2020年は新たに再稼働した原発はゼロ。事故前に3割程度あった原発の総発電に占める割合は、2019年には約6.5%となった3。
柏崎刈羽原発~問われた東電の「適格性」
東電柏崎刈羽原発(新潟県)の6・7号機では、再稼働のための安全対策費が1兆1,690億円とふくれあがった。同原発に関しては、新潟県が、「福島第一原発の事故原因」、「原発事故が健康と生活に及ぼす影響」、「安全な避難方法」の3つの検証を行っているところだ。新潟県は、これが終わらない限り、再稼働に向けた議論は行わないとしている。
一方で、柏崎刈羽原発の審査に当たっては、東電の原発を運転する「適格性」が問われた。原子力規制委員会は、「廃炉への覚悟」「リスク低減の継続的努力」などを社長名の文書で回答させ、また、保安規定にも書き込ませた。しかし、東電は住民への賠償を払い渋り、ADR(原子力賠償紛争解決センター)から提案された和解案を拒否し続けている。保安規定に実態のない精神論を書き込ませて合格させる原子力規制委員会の姿勢は疑問だ。
2021年2月、東電の柏崎刈羽原発所員が原発中央制御室に、別の所員のIDカードを用いて不正な方法で入室したことが発覚。原子力規制庁がこの報告を受けていながら4カ月も事実を明るみに出さなかった。東電のみならず、規制庁、規制委員会の姿勢も問われている。
被災した女川原発2号機が合格~早々に県知事が再稼働に「同意」
東北電力女川原発2号機(宮城県)は、2020年2月に原子力規制委員会の設置変更許可が出た。また、同年10月に立地自治体である女川町・石巻市の議会と宮城県議会が、11月に宮城県の村井知事が再稼働に同意した。今後、工事計画認可、保安規定認可などの手続きがあるが、東北電力は2022年の稼働を目指している。
女川原発は東日本大震災当時、高さ約13メートルの津波や激しい揺れに襲われた。5回線ある外部電源のうち1回線が生き残り、かろうじて外部電源が保たれた。損傷を受けた施設や機器も多い。原子炉建屋の耐震壁に1,130箇所のひび割れが確認された。
県内では再稼働反対の世論が根強い。2017年8月、河北新報が行った世論調査では、女川原発2号機の再稼働について「反対」「どちらかといえば反対」を合わせた反対意見は68.6%に上った。2019年2月、「女川原発再稼働の是非をみんなで決める県民投票を実現する会」は、再稼働の賛否を問う県民投票条例の制定を求める署名約11万筆を県議会に提出したが、同年3月に否決されたという経緯がある。 立地自治体および県知事が、早々に再稼働に合意をしたことにより、根強い再稼働反対の声が宙に浮いた形となった。
注1: テロ対策施設は新規制基準に含まれており、本来であれば再稼働前に建設されるべきものであるが、「工事計画認可後5年以内に設置すること」と猶予されていた。
注2: 大飯原発1~2号機は廃炉が決定。3号機は配管に傷が見つかり、再稼働の時期は見通せていない。大飯原発4号機は2021年1月15日に再稼働。
注3: ISEP(2020年4月10日)「2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合(速報)」https://www.isep.or.jp/archives/library/12541
(『福島の今とエネルギーの未来2021』)